踊り子ロボの偽島行軍模様。
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ゆっくりと。
ゆっくりと。
少女はゆっくりと歩を進める。
別に、抜き足差し足で歩いているわけではない。
しかし無機質な灰色の石でできた薄暗い回廊は、
彼女に踏みつけられても何一つ物言うことなく、その進行を許した。
光差す窓は無く、
小虫が這う壁にも、低く黒ずんだ天井にも明かりになるようなものは無い。
それでもその牢獄より閉ざされた暗き回廊が薄明るいのは、
彼女自身が僅かに輝いているからだ。
黄銅の法衣に身を包み、
首から金色に光るペンダントを提げている。
長く透き通るような美しい黒髪は何の飾り気も無く、
ただその髪に溶けこんだ黒い紐で馬の尾状に束ねられていた。
まだあどけなさが残るが、見る者をはっとさせるような美貌。
その美しい顔には、思い詰めるというよりは強い決意を感じさせる、
厳しいものが浮かんでいた。
洞穴などに棲み、その穴に棲家を求めてやってくる動物の血を好む小虫。
回廊にはその群れが潜んでいた。
一匹が彼女を視認してすぐに、獲物とばかりに飛び掛る。
肩に触れる寸前。
見えない何かに遮られた小虫は、一瞬で塵に還った。
群れで行動し、危険のシグナルを発することで仲間を護る術を知る小虫たちは、
その恐るべき来訪者に恐怖するや、一斉に遠ざかった。
やがて、回廊の終わりが見えてきた。
ここまでの狭苦しさが嘘のような、広々とした石室に出たのだ。
その最奥には複雑な紋様が描かれた、巨大な扉が佇んでいた。
少女は無言のまま、
その扉の前に立ち、
そっと触れて、小さく嘆息した。
長く放置され続けた扉には埃どころか汚い土塊がこびりついていたが、
不思議と少女の手が汚される事はなかった。
不意に、少女は素早く振り返り、
自らがやってきた暗い回廊を鋭く睨みつけた。
「クライス」
決して大きな声ではなかったが、
それは部屋中に響き渡った。
「クライス。来ているのでしょう?姿を見せて」
彼女以外に誰かいるというのだろうか?
まさか、壁を走る小虫に呼びかけたわけでもあるまい。
いや、いた。
いつからそこにいたのだろうか。
その男は、部屋の入り口に立っていた。
右手に握られた大鎌が、僅かな光を冷たく不気味に反射する。
「気配は消していたんだが、よく分かったな」
「分かるわ。貴方のことだもの」
少女はうってかわって、その容貌に相応しい、華の様な微笑を浮かべ、
男は照れたように苦笑した。
銀髪の青年は少女に歩み寄る。
その足音を愛しむように耳を澄まして、少女は青年を待つ。
それは長いようで、極々僅かな時間。
扉の前で、
二人は暫し無言で見つめ合った。
「どうして来たの?」
少女は少し表情を曇らせた。
それは青年を責めているようでもあり、
青年をここへ招く結果になった自らの行いを悔やんでいるようでもあり、
ただ、確かなのは、青年の身を案じているということ。
「お前を護るために」
青年は真直ぐに少女を見返し、即答した。
その声に揺らぎはなく、
その言葉に迷いは無かった。
「貴方だけは巻き込みたくなかった。
その時を……その時をただ待っていてくれるだけで良かったのに」
「お前を一人にしたくなかった。
その時が……その時がやってきた時に傍にいるべきだと思った」
苦渋に満ちた顔できつく目を閉じる少女はゆっくりと青年に身を投げ出し、
青年は少女を静かに優しく抱き寄せた。
そこは少女にとって、この世で唯一つ、安らぎを得られる場所。
「後悔は、しない?」
少女は消え入るような声で、尋ねる。
「有り得ない。
お前と共に居られぬ選択以外に、後悔などと」
強い言葉で、青年は答えた。
二人の唇が重なる。
それはいかなる誓約よりも、
いかなる呪いよりも、
遥かに強い、想いという名の力。
「壊すわ。この世界を。
そして創り直す。
私が愛せるように……私を愛するように」
「壊すといい。
創り直せばいい。
俺はお前について行く……どこまでも」
他人の勝手で醜い悲願と欲のために存在させられた少女は、
この世界において、愛を知らない。
目の前にいる、青年を除いては。
この世界は醜い。
だから少女は、この世界を愛せない。
そして世界は、彼女を愛さない。
少女は願う。
強く願う。
自らが愛し、
自らを愛する、そんな世界を。
ふと、頭に数年前のことが過ぎる。
それはかつて出会った、六人の冒険者のこと。
立ち塞がるモノを叩いて割って、砕いて進む者たち。
彼らは少女がこれからしようとすることを、どう思うだろう?
同情するだろうか?
哀れむだろうか?
それとも賛同してくれるだろうか?
いや。
分かりきっている。
彼らなら、きっと少女たちに牙を剥くだろう。
世界を護るためではない。
そんな正義感に満ちた精神の持ち主たちではない。
この世界で、彼らが彼ら自身の旗を掲げ続ける、ただそれだけのため。
できれば彼らとは戦いたくは無い。
だが、避けられぬならば、いいだろう。
未来は勝者が造る。
他人に対してであろうと、自分に対してであろうと。
勝者だけが未来を見に行くことができる。
少女は誓う。
勝者となることを。
自分のための未来を見に行くことを。
そのために、自らの前に立ち塞がるものは、いかなるものであろうと排除する。
この世において、傍らの青年さえいてくれるならば、
力を振りかざして蹂躙することに躊躇すべき命など存在しないのだ。
二人は静かに離れ、
無言のままに、門を見つめる。
すべては、ここから始まるのだ。
さようなら。
小さく呟いた少女は、
胸のペンダントを勢いよく引き千切り、足下に投げ捨てた。
その言葉と行為は、
この世界との決別の証。
少し早い、これから去り行くモノたちへ向けた別れの言葉。
自分たちが、立ち去らせるのだ。
これから。
ここから。
扉の右端に小さな円形の窪みがある。
少女は懐から青銅色のメダルを取り出すと、
躊躇うことなく窪みにはめ込んだ。
ギシリ。
古々しき扉は、その眠りから覚まされ、
ゆっくりと開き始めた。
その音は目覚めの歓喜による叫びか、
眠りを覚まされたことへの慟哭か。
分厚い金属の扉は巨大な悲鳴をあげながらゆっくりと開いていく。
光が、漏れ―――溢れる。
遥か太古からこの扉の向こうに封じられていた光は、
二人はおろか、広大な石室を抜け、回廊全てを呑み込んだ。
その光も徐々に薄れ、消えていく。
やがて扉の向こうに存在する部屋にのみ留まり、
回廊や扉の前の石室は、再び薄暗い闇が戻ってきた。
と同時に、冷たくくすんでいた壁に、次々と色が走る。
いや、壁だけではない。
赤、青、黄、緑……いくつもの色の光の線が、天井や床にも現れた。
ブゥゥゥン……という低い音が、あちこちから絶え間なく聞え始める。
回廊から微かに小虫たちの鳴き声が聞えた。
その声は断末魔に他ならない。
今や本来の姿を取り戻したこの地は、
その資格無き住人を完膚なきまでに排除したのだ。
塵すら残さず、彼らは消滅した。
喜びに震えながら扉の先への一歩を踏み出そうとした少女だったが、
はっと何かに気づき、すぐに足を戻す。
代わりに半歩進み出た青年が少女を背後に庇った。
二人の険しい視線は天を仰ぎ、そして―――見た。
扉の向こう、その入り口から数歩の天井には無数のコードが縦横無尽に走り、
それに束縛されたように包まれる、人型の者。
金属でできた体を持つ、巨体。
彼の眼は赤く赤く爛々と輝き、二人の姿をはっきりと捉えていた。
ゆっくりと。
少女はゆっくりと歩を進める。
別に、抜き足差し足で歩いているわけではない。
しかし無機質な灰色の石でできた薄暗い回廊は、
彼女に踏みつけられても何一つ物言うことなく、その進行を許した。
光差す窓は無く、
小虫が這う壁にも、低く黒ずんだ天井にも明かりになるようなものは無い。
それでもその牢獄より閉ざされた暗き回廊が薄明るいのは、
彼女自身が僅かに輝いているからだ。
黄銅の法衣に身を包み、
首から金色に光るペンダントを提げている。
長く透き通るような美しい黒髪は何の飾り気も無く、
ただその髪に溶けこんだ黒い紐で馬の尾状に束ねられていた。
まだあどけなさが残るが、見る者をはっとさせるような美貌。
その美しい顔には、思い詰めるというよりは強い決意を感じさせる、
厳しいものが浮かんでいた。
洞穴などに棲み、その穴に棲家を求めてやってくる動物の血を好む小虫。
回廊にはその群れが潜んでいた。
一匹が彼女を視認してすぐに、獲物とばかりに飛び掛る。
肩に触れる寸前。
見えない何かに遮られた小虫は、一瞬で塵に還った。
群れで行動し、危険のシグナルを発することで仲間を護る術を知る小虫たちは、
その恐るべき来訪者に恐怖するや、一斉に遠ざかった。
やがて、回廊の終わりが見えてきた。
ここまでの狭苦しさが嘘のような、広々とした石室に出たのだ。
その最奥には複雑な紋様が描かれた、巨大な扉が佇んでいた。
少女は無言のまま、
その扉の前に立ち、
そっと触れて、小さく嘆息した。
長く放置され続けた扉には埃どころか汚い土塊がこびりついていたが、
不思議と少女の手が汚される事はなかった。
不意に、少女は素早く振り返り、
自らがやってきた暗い回廊を鋭く睨みつけた。
「クライス」
決して大きな声ではなかったが、
それは部屋中に響き渡った。
「クライス。来ているのでしょう?姿を見せて」
彼女以外に誰かいるというのだろうか?
まさか、壁を走る小虫に呼びかけたわけでもあるまい。
いや、いた。
いつからそこにいたのだろうか。
その男は、部屋の入り口に立っていた。
右手に握られた大鎌が、僅かな光を冷たく不気味に反射する。
「気配は消していたんだが、よく分かったな」
「分かるわ。貴方のことだもの」
少女はうってかわって、その容貌に相応しい、華の様な微笑を浮かべ、
男は照れたように苦笑した。
銀髪の青年は少女に歩み寄る。
その足音を愛しむように耳を澄まして、少女は青年を待つ。
それは長いようで、極々僅かな時間。
扉の前で、
二人は暫し無言で見つめ合った。
「どうして来たの?」
少女は少し表情を曇らせた。
それは青年を責めているようでもあり、
青年をここへ招く結果になった自らの行いを悔やんでいるようでもあり、
ただ、確かなのは、青年の身を案じているということ。
「お前を護るために」
青年は真直ぐに少女を見返し、即答した。
その声に揺らぎはなく、
その言葉に迷いは無かった。
「貴方だけは巻き込みたくなかった。
その時を……その時をただ待っていてくれるだけで良かったのに」
「お前を一人にしたくなかった。
その時が……その時がやってきた時に傍にいるべきだと思った」
苦渋に満ちた顔できつく目を閉じる少女はゆっくりと青年に身を投げ出し、
青年は少女を静かに優しく抱き寄せた。
そこは少女にとって、この世で唯一つ、安らぎを得られる場所。
「後悔は、しない?」
少女は消え入るような声で、尋ねる。
「有り得ない。
お前と共に居られぬ選択以外に、後悔などと」
強い言葉で、青年は答えた。
二人の唇が重なる。
それはいかなる誓約よりも、
いかなる呪いよりも、
遥かに強い、想いという名の力。
「壊すわ。この世界を。
そして創り直す。
私が愛せるように……私を愛するように」
「壊すといい。
創り直せばいい。
俺はお前について行く……どこまでも」
他人の勝手で醜い悲願と欲のために存在させられた少女は、
この世界において、愛を知らない。
目の前にいる、青年を除いては。
この世界は醜い。
だから少女は、この世界を愛せない。
そして世界は、彼女を愛さない。
少女は願う。
強く願う。
自らが愛し、
自らを愛する、そんな世界を。
ふと、頭に数年前のことが過ぎる。
それはかつて出会った、六人の冒険者のこと。
立ち塞がるモノを叩いて割って、砕いて進む者たち。
彼らは少女がこれからしようとすることを、どう思うだろう?
同情するだろうか?
哀れむだろうか?
それとも賛同してくれるだろうか?
いや。
分かりきっている。
彼らなら、きっと少女たちに牙を剥くだろう。
世界を護るためではない。
そんな正義感に満ちた精神の持ち主たちではない。
この世界で、彼らが彼ら自身の旗を掲げ続ける、ただそれだけのため。
できれば彼らとは戦いたくは無い。
だが、避けられぬならば、いいだろう。
未来は勝者が造る。
他人に対してであろうと、自分に対してであろうと。
勝者だけが未来を見に行くことができる。
少女は誓う。
勝者となることを。
自分のための未来を見に行くことを。
そのために、自らの前に立ち塞がるものは、いかなるものであろうと排除する。
この世において、傍らの青年さえいてくれるならば、
力を振りかざして蹂躙することに躊躇すべき命など存在しないのだ。
二人は静かに離れ、
無言のままに、門を見つめる。
すべては、ここから始まるのだ。
さようなら。
小さく呟いた少女は、
胸のペンダントを勢いよく引き千切り、足下に投げ捨てた。
その言葉と行為は、
この世界との決別の証。
少し早い、これから去り行くモノたちへ向けた別れの言葉。
自分たちが、立ち去らせるのだ。
これから。
ここから。
扉の右端に小さな円形の窪みがある。
少女は懐から青銅色のメダルを取り出すと、
躊躇うことなく窪みにはめ込んだ。
ギシリ。
古々しき扉は、その眠りから覚まされ、
ゆっくりと開き始めた。
その音は目覚めの歓喜による叫びか、
眠りを覚まされたことへの慟哭か。
分厚い金属の扉は巨大な悲鳴をあげながらゆっくりと開いていく。
光が、漏れ―――溢れる。
遥か太古からこの扉の向こうに封じられていた光は、
二人はおろか、広大な石室を抜け、回廊全てを呑み込んだ。
その光も徐々に薄れ、消えていく。
やがて扉の向こうに存在する部屋にのみ留まり、
回廊や扉の前の石室は、再び薄暗い闇が戻ってきた。
と同時に、冷たくくすんでいた壁に、次々と色が走る。
いや、壁だけではない。
赤、青、黄、緑……いくつもの色の光の線が、天井や床にも現れた。
ブゥゥゥン……という低い音が、あちこちから絶え間なく聞え始める。
回廊から微かに小虫たちの鳴き声が聞えた。
その声は断末魔に他ならない。
今や本来の姿を取り戻したこの地は、
その資格無き住人を完膚なきまでに排除したのだ。
塵すら残さず、彼らは消滅した。
喜びに震えながら扉の先への一歩を踏み出そうとした少女だったが、
はっと何かに気づき、すぐに足を戻す。
代わりに半歩進み出た青年が少女を背後に庇った。
二人の険しい視線は天を仰ぎ、そして―――見た。
扉の向こう、その入り口から数歩の天井には無数のコードが縦横無尽に走り、
それに束縛されたように包まれる、人型の者。
金属でできた体を持つ、巨体。
彼の眼は赤く赤く爛々と輝き、二人の姿をはっきりと捉えていた。
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Image music:ヒトリ世界 by Miya Yuki
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